旅  その8  日本旅館



この旅では日本旅館に宿泊した。ほとんどが外国人客だ。通された部屋はあまりいいとは言えなかった。3階だった。広く畳の部屋で窓の外には細い竹が風に揺れている。朝方、小鳥のさえずりで目が覚め、二日目の朝は雨のいい音で起こされた。こういった繊細な情緒は旅の思いに色をつけてくれる。しかし、大胆なところもあった。昔ながらの旅館なので下手に改造したくないのだろう、今風な薄いテレビがドンと畳の上に置いてあった。フロントで対応してくれた白髪の小さな老女将ならやるだう。当然、部屋食だ。膳を運んできた仲居さんは、はあはあいっている。料理用のエレベーターはないという。大変ですね、というと、大変です〜、という。でも、遠慮なく言ってくださいねとにこにこかニタニタの真ん中の笑い顔で、よっこらしょと腰をあげる。この、はあはあ〜を聞いてから、ビールの追加がなかなかできなかった。つぎの膳がきたとき、悪いと思って、ビール追加と一緒に温燗も頼んだ。これが失敗だった。酒は、銀閣、といった。腹がくちくなり、酒は温燗が冷めで変な温度になってしまった。翌朝、出掛けるとき、髪をあげた紺の女半纏の若女将が暖簾を片手であげ、いってらしゃいませ、と送り出してくれた。そこには大きな石段がありたっぷりと水が打たれていた。これだけでも日本旅館に泊まってよかったと思った。