バス停ではいろんなことが起きる。とは思ってもいなかったが、長年バス通勤してるとそれがよく起きる。昨夜はこの荷物だ。夕闇が迫りつつある時刻だった。自転車に乗った青年が、多分学生だ、バス停に近づいてきて通り過ぎるのかと思ったら持っていたコンビニ袋をポンとベンチに置いて、時刻表をのぞきこんだ。こちらは目を離しスマホか星空を見たとおもう。何気なく横に顔を向けたら、この袋だけがあった。当然、驚いた。目をあげると自転車に乗った青年の姿はすでに小さくなって夕闇の中に溶けつつあった。追うにも、声を出すにも、遠すぎた。左横にはスマホをいじる女性が一人いた。彼女は気づいていない。困った。カップラーメンなどがこぼれ出そうだった。お節介だが袋の口を結びベンチに置き直した。交番に届けるほどのものでないし、こちらにも用がある。待っている遠距離バスもそろそろ来る。しばし思考停止状態になる。心のなかでは、あきらめてくれ、と食べ物達に訳の分からない言葉をつぶやいたり、見知らぬ人物に喰われるくらいならこちらが喰ってやった方が供養になるか、ただこういった物は食さないしな、などとこちらも訳の分からないことを考え、ただ眺めていた。途方に暮れる状態だ。そのときは、このあとこちらが穴があったら入りたくなることになってしまうとは思いもしなかった。