中年夫婦が眉間にシワを寄せて交差点に立っていた。陽射しの照り返しは強い。ともにタオルで汗をぬぐった。傍らに警備員の中年男性がいる。「駐車券はないのですか」警備員が帽子を脱ぎながら言った。旦那はポケットを捜す。やはり、ない。「車のなかに置いてしまったのかもしれませんね。私もよくやってしまいます」優しい言葉づかいだ。どうやら、夫婦は停めたパーキングが分からなくなった旅行者のようだ。しかしこの警備員の立場は不思議だ。訊ねられ一緒に探してやっている体だ。困惑と懸命さがにじみでている。一度空港の駐車場でやったことがある。記憶と方向感覚には自信があった。戻ったら車が見当たらない。そのときはいつものAではなくBの駐車場に停車した。山中で迷った状態だ。しかも吹雪だ。途方に暮れた。見つけたときには助かったと思った。それからは目印をしっかり頭に入れた。信号が変わり渡りはじめた。三人は警備員を先頭にこちらを追い抜いていった。そろってますます険しい顔つきだ。コインパーキングはどこも同じに見える。苛立ちと疲労感が増す。料金もどんどんあがる。都会には意外な迷宮があるものだ。
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